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【デブサミ2021レポート】星野リゾートではどのようにして旅館現場出身者をIT人材へ育成したのか?(2021年2月時掲載)

デブサミ2021セッションにおいて、弊社のエンジニアチームリーダー藤井氏、運用チームメンバー小竹氏、プロダクトオーナーチームリーダー眞鍋氏が登壇。そのセッション内容を「チーム作り」及び「IT人材化」を軸にまとめてみた。

■外部依存で失敗。内製化体制を目指し、チーム体制を再構築

情報システム部門は、数年前は社内に5名と外部パートナーがメインの体制だった。その後デジタル変革を実現するべく、現場からの異動や中途採用を積極的に行い、現在は軽井沢、東京、大阪を拠点に総勢32名のチームになっている。異なるフィールド出身者の混成チームだからこそ、互いの強みを生かして、開発・改善・インフラ構築・運用・開業支援などのタスクを遂行している。「社内からの要求はもちろん、ホスピタリティを追求する新たな価値の創造を目指し、日々迫りくる課題と戦い続けているので、私達は、自らのことを『戦う情シス』と呼んでいます」と語るのは、星野リゾートの情報システムグループエンジニアリーダーの藤井崇介氏。入社時の感想として藤井氏は「効率化のためシステムを入れることに前向きでは有りましたが、外部開発メインのためスピードもイマイチでしたし、何よりリリース後に現場の実情に合わせてのアジャスト対応が全然出来ていませんでした。」



「一番の要因は、開発と運用が切り離されていたことですね」と説明した。運用からのフィードバックがないため、システムの成長が止まってしまうこと。一方では運営する施設は増え続け、情報システム部門の役割は大きくなっていくため、2017年ごろから再構築が始まった。情報システム部門には、開発・改善・保守・運用・導入・リスク管理などのタスクが課せられているが、これを3つのチームで役割分担している。一つが社内の業務を極めて、あるべき姿に導くプロダクトオーナーチーム。運用を通じて業務を効率化し、システムを良い方向に導く運用チーム、そして3つ目は独自の取り組みを支えるシステムを開発するエンジニアチームである。




■運用チームにて非エンジニアスタッフのIT人材化を目指すノーコード開発

続いての登壇は運用チームの小竹潤子氏。

小竹 潤子
・16年4月入社、星のや軽井沢配属
・主に夕食サービス、清掃コントロールを担当
・19年6月社内公募で情報システムグループに異動
・IT知識は0からのスタート
・軽井沢オフィス勤務

小竹氏は「運用チームの仕事として大きく二つあります。一つが安心安全なシステム運用を担保することとして、PCのキッティングや社内のヘルプデスクとして問い合わせ対応を行っています。もう一つがすべての業務のIT化推進です。スタッフから受けた業務相談に関してIT化の提案やサポートを行っています。ノーコード・ローコードツールによって自ら開発を行うこともありますし、要望が複雑な場合は、ほかのチームと連携を取り合いながら、高度なシステム開発を行います」と説明した。これまで作ってきたノーコード・ローコードの開発のシステムの例として、全社で利用する購買や出張申請のワークフローや、新規開業施設の採用フロー管理がある。使用ツールの一つが「kintone」で、同社ではおよそ800のアプリが稼働している。現在のようにノーコード・ローコード開発ができるようになる以前、バックオフィスを担当するエンジニアは1名しかいなかった。業務効率改善のアプリを次々に作っていたものの、やがて保守ができないほどの量にまで膨れ上がってしまった。社内からの要望も複雑化し、期待に応えられるものを提供できなくなっていった。属人化がボトルネックとなった形だ。小竹氏は、エンジニアのリソース不足のため当時起きていたさまざまな事件として、些細な色変更でも3カ月待たされる、物品の購入申請ルールが変わっても、登録側のシステムが改修されずおかしなルールでの運用がなされる、など。


■現場出身だからこそ、「課題の共感力が高い」状態でことにあたれる

問題を解消すべく運用チームに届く依頼を見直したところ、複数の担当者から同じようなリクエストが多く見られた。加えて、クラウド上で容易に開発できるサービスが登場していることから、フルスクラッチの開発の必要性が減っていることから、ノーコード・ローコードツールの導入に踏み切った。ノーコード開発のメリットは、一定の学習をすれば習得できること。非エンジニアからもシステム開発担当を育成できる。
小竹氏は、「私自身もゼロベースからスタートしましたが、1年ほどで使えるようになりました。また私のような現場出身者が開発側に回りますので、業務相談を受けたときに、課題の共感力が高い状態でシステム開発を行うことができるメリットもあります。保守の負担も軽いので利用者の方も含めて気づいた方からシステムを改善できます。そこで私たちは、システムを作ることでなく、システムで業務改善をし続けることの重要さに気がついたのです」と説明。


■伝書鳩から価値を提供するプロダクトオーナーへの成長

続いて登壇したのはプロダクトオーナーチームのリーダーである眞鍋悠氏。

眞鍋 悠
・09年4月入社
・4年間 オペレーション設計とトレーニングで全国を飛び回る
・16年5月 情報システムグループへ
・認定プロダクトオーナー
・東京オフィス勤務
・特技はトロンボーン

星野リゾートには、数々の自社開発プロダクトがあり、それらのプロダクトは、同社の理想をもとに構築される。そのプロセスを管理するのがプロダクトオーナーチームだ。外部パートナーに依存していた時期が長く続いていたが、その時は業務のイメージが伝わらず構築に時間がかかったり、思ったものと違うものが出来上がったり、修正にコストがかかったりと、徐々に負債が蓄積されていった。眞鍋氏は「良いシステムを作るには、リーダーシップをとっていく必要があると気づき、状況打開するために生まれたのが、プロダクトオーナーチームです。長らく接客経験を積んだメンバーで編成し、より現場に寄り添う効果的なシステム構築を目指しました。しかし、システム開発については素人でしたので、主導権を握れないまま報告だけをする、伝書鳩プロジェクトオーナーとなってしまったのです」と説明した。そして、その状態から脱却をするため、IT投資判断プロセス、情報収集とシェア、プロダクトオーナーのスキルマップ整備の仕組みを整備していった。IT投資判断プロセスの仕組み化は、星野リゾート代表である星野佳路氏の一言がきっかけとなった。眞鍋氏は「私たちがやりますと言いながらいつまでたっても完成しないということに業を煮やした代表が、全国の総支配人も集まる経営会議で『やるやる詐欺だ!』と激怒してしまいまして……。当時の情報システムはたくさんの部署から要望がきてそれが山積みになり、いつ完成するかわからない状況でした。そこで、5年前から案件を整理する会議を月に1度設けることにしました。代表も参加し、優先すべきプロダクトを明確にしています」と説明した。

■チームでひたすら学習し、暗黙知を明文化

プロダクトオーナーのスキルマップ整備と学習の仕組みについては、プロジェクトで得た経験を整理し、
チーム内で共有して、次はどうするかを体系化し学んできた。この取り組みについて眞鍋氏は「題材には事欠きませんでした。知らないことばかりでしたので、プロジェクトを経験したら一つひとつ整理してチームの中で共有していきました。UML(Unified Modeling Language)を使って理想の業務について議論するなど、試行錯誤しながらツールを使ってチームで学んでいきました。この体系は『情シスマニアクス』と、あるゲームにちなんで名付けています。これを読んでおけば情シスの世界を渡っていけるよう情報を整理したものです」と述べた。

各種仕組みの整備を行った結果、アジャイルな開発ができるようになった。また内製化によってチームメンバーが深い部分まで理解をしているので、トラブル発生時の代替案の提案もスムーズになった。

現場で培ったサービスの知識とプライドによって、説得力を持ってプロダクトを語れること、幅広い業務知識をカバーできること、そして理論を学んで実践したことがうまく機能している。リアリティと実現力で良いプロダクトを提案・実現していけるプロダクトチームとなったのだ。「やるやる詐欺だ!」と一喝した星野代表も今では「ITがなければ作れない『ありたい世界』を提案、実装してほしい」と期待の目を向けている。


■IT人材を自ら育成し、活躍できる場を増やしていく

現在は、IT人材を増やしながら、DXを推進する時代に突入している。このような時代において、小竹氏や眞鍋氏のような現場の業務に詳しいメンバーがIT人材となることは、最初から業務の理解が高いことや、会社への愛着があることがうまく作用する。また、ノーコード・ローコードで作成できるシステムも増えているので、星野リゾートグループ3000名のスタッフから人材を確保することもできる。現場出身者が活躍した事例として、藤井氏はコロナ禍での短期間の構築と、たびたびのレギュレーション変更など不測の事態が生じた2020年のGOTOトラベルへの対応を振り返った。宿泊予約のシステムだけでなく、予算管理、返金対応など、影響は広範囲となった。プロダクトオーナーチームはユーザーストーリーや画面のデザインを率先して検討し、販売担当や予約担当、オペレーション担当と次々にオンライン会議をして要件を確定し、エンジニアチームにフィードバックした。運用チームは突如発生した返金対応のための申請フォーム作りなど、ノーコードでできるものはどんどん進め、時には顧客対応などもサポートして、それぞれができることを協力して、開発から運用まで貢献した。

藤井氏は、最後に以下の言葉で締めくくった。
「旅に求められるものは安心して非日常を楽しむことだと星野リゾートでは考えています。日々ウイルスへのストレスを抱えているお客様に対し、心を解放して過ごせる滞在を用意することが観光産業にできることと信じています。それを達成するためにITを軸にサポートしていくことが使命です。IT人材の確保は困難な状況になっていますが、私たちは、自ら育成し、活躍できる場を増やしていきたいです」

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