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わずか数%の改善が、数十億の売上を左右する世界で。物理学研究者から機械学習のエンジニアにキャリアチェンジし、見えた道

─ アドテクノロジーの世界は群雄割拠で、多くの企業がしのぎを削り技術も急速に進歩している。だからこそ、常に“新しい風”が必要だ。2015年、機械学習専門のエンジニアとして入社した佐野 正和はまさに、フリークアウトに新たな風を吹き込んだ人物だった。もともとは素粒子物理学を学び、素粒子論研究で博士号を取得している佐野。彼はなぜアドテクの世界で活動することを選んだのだろうか。


上部写真右:佐野 正和(さの まさかず)

株式会社フリークアウト  Science Division, Division Manager, Ph.D.

2015年1月、Data Mining Engineerとして株式会社フリークアウトに入社。
2015年4月、Tech Lead就任。
Techメンバーの技術指導やアーキテクチャレビューなど、開発全体のリードを担う。
2016年12月、MVP受賞。
“世の中の全て事象を数式とコードで表現しながら、広告パフォーマンス改善プロジェクトを遂行した、フリークアウトのブレイン”として表彰される。
2017年7月、Science Division新設とともにDivision Manager就任。 (Tech Lead兼任)
システムのパフォーマンス改善から新卒採用活動まで、幅広く担う。


上部写真左:西口 次郎(にしぐち じろう)

株式会社フリークアウト 取締役 CTO

2013年9月、エンジニアとして株式会社フリークアウトに入社。
入札、配信、DMP、ログ基盤、インフラなど、幅広く担当。
2017年1月、執行役員 CTO就任。
2019年10月、取締役 CTO就任。
国内外の事業開発および技術責任、約60名のエンジニア部門のマネジメントを担う。
2020年1月、株式会社フリークアウト・ホールディングス 執行役員就任。


─ 今回はフリークアウト CTOの西口 次郎を聞き手に、2人の対話から、エンジニアとしての佐野の思考と、「Science Division」を通してフリークアウトが目指すことをひもといていきたい。

「知りたい」という純粋な欲求から素粒子物理学を学ぶ

西口 次郎(以下、西口):佐野さんって、システムエンジニアとしてはちょっと異色の経歴の持ち主ですよね。大学・大学院で素粒子物理学を研究し、博士号までとっている。

佐野 正和(以下、佐野):中学生のときに宇宙に興味を持ち、そのまま興味を持ち続けて大学院まで進みました。中学の図書室でたまたま手に取った、雑誌『Newton』別冊の宇宙特集がすごく面白くて。家に帰ってすぐに、お小遣いを握りしめて宇宙の本を買いに行ったのが原体験ですね。

西口:キャリアの選択肢はいくつかあったと思うけど、研究の道に進んだのはどんな意図からですか?

佐野:それはもう、ただ「知りたい」という欲求ですね。僕のように物理や理学系に興味を持つタイプの人間は、わからないことを知る行為そのものを楽しむ傾向が強いんです。ちょっと子どもっぽいかもしれませんが、純粋な好奇心でドライブがかかるんですよね。

西口:なるほど。

佐野:ただ一方、その先の研究職はかなり狭き門だとわかっていたので、自分なりにルールを課しました。本当に自分が行きたいと思うポストに応募してみて、うまくいかなかったら企業に就職しようと決めたんです。結果的に、博士号を取得してから1年間は研究員をしつつも、就職活動に切り替えることにしました。

西口:そこから、最初の就職先が広告会社ですよね。宇宙の素粒子を研究していた人が、なぜ広告会社に入ろうと思ったんですか?

佐野:その会社にたどり着く前に、まず機械学習との出会いがありました。大学院時代、偶然手に取った研究室の先輩の修士論文が、金融工学に素粒子物理学のテクニックを応用している研究で、非常に興味をひかれました。
その周辺の研究について少しずつ勉強していくうちに、機械学習というものがあることを知り、さらにのめり込んでいきました。それがちょうど就職を考えるようになったタイミングと重なったんですよね。そこから、機械学習を事業に実装することにチャレンジしてみようと考えて、企業を探してみることにしました。


機械学習を、ビジネスに実装する挑戦

西口:機械学習のプロダクト化が大きく進んだのは金融や広告の領域からだったと思います。それが2010年頃からのことですから、佐野さんが機械学習を武器に就職しようと考えたのは、かなり世に先駆けた行動でしたね。

佐野:機械学習やデータマイニングをキーワードに求人を検索して、いくつか会社説明会に参加しました。そしてある程度、就職先の会社に目処が立った時点で北海道から1週間上京し、まとめて採用試験を受けました。

大手メーカーなどの大規模な会社説明会にも行ってみたのですが、大勢が一様に動いているさまを見て、自分には合わないかもしれないなと思いまして(笑)。当時は小さなベンチャーだった広告会社の「Fringe81」に入ることに決めました。

西口:入社後は、どんな仕事をしていましたか?

佐野:エンジニアとして、レポート作成自動化ツールや大規模な生ログ集計バッチ開発、さらに広告配信の予算アロケーションやアトリビューション分析のロジック発案から本番実装・運用まで、幅広く携わりました。

当時はまだ、会社自体がさまざまなサービスの構築に試行錯誤している立ち上げの時期で。チームの人数も少なく、入稿、差し替え、広告主向けレポーティング、配信設定なども担当したりと、とにかく仕事は選ばず来たらやる、という状態でしたね。

西口:Fringe81に約4年間勤務した後、2015年にフリークアウトに転職していますね。どんな思いでの転職だったんですか?

佐野:会社の事業フェーズが移行しつつある中で、自分としては、機械学習をもう少し深掘りしたい気持ちが芽生えていました。だから次の環境へ移ろう、と。

フリークアウトに出会ったのは偶然でした。当時、オフィスが隣のビルで(笑)。DSP事業者として膨大なデータを自社内に保持しているフリークアウトなら、機械学習を使って、自分のやりたいことが実現できるんじゃないかと考えたのが、転職の決め手になりました。


— フリークアウトに入社した佐野は、機械学習を活用したDSPの入札ロジック改善に携わることになる。そして、機械学習の実装を通して“新しい風”を社内に吹き込んでいった。

わずか数%の改善が数十億の売上を左右する世界で

西口:フリークアウトで働くようになって、どうでしょう。統計学や機械学習など、博士課程の頃に学んでいたことが今の仕事に生きていると感じることはありますか?

佐野:厳密には異なる部分もありますが、自分の中では流れがつながっていますね。広告には確率や統計の要素が関わってくるので、抽象化すると数学のテクニックを一部使うことができます。

例えば、時間変化する広告表示回数、クリック数やCV数を配信期間で全体的に最適化するために、素粒子論や非平衡系統計物理、制御理論等の概念を取り入れ改善アイデアを練ることもあります。機械学習モデルのパラメータ学習には、力学系からインスピレーションを得たりもします。

もちろん方法はそれだけではないんですが、私には慣れ親しんだ手法なので、そこからアナロジーなどを使ってモデルをつくったりしています。

西口:佐野さんと仕事をしていて面白いなと思うのは、いつも、なにかと数式を書いているんですよね。私はいわゆるWeb系のエンジニアとしてのバックグラウンドを持った人間なので、何かを検証するときにはプログラミング言語に落としこんで、コードを書いてみたりして考えるんです。

佐野:それは研究分野による癖のようなものなのでしょうね。私がやっていた理論物理は、とにかく手計算で厳密にやりきることが多くて。

西口:面白いですね。さまざまなバックグラウンドをもった人が当社のシステムにエッセンスを加えてくれるのはとてもうれしいことですし、事業成長にも欠かせないことだと思います。

実際、佐野さんは2016年に社内でMVPを獲っていますよね。佐野さんを中心としたチームの働きで機械学習の予測モデルの精度が上がり、売上がぐっと増えた。ビジネスの根幹を変える成果が評価されたんです。

佐野:ロジックを考えるところから始めて、DSP本番環境への実装や運用まで携わって事業に貢献できたことに対し、大きな達成感がありました。私たちの仕事のいいところは、明確な数字で評価できる仕組みがある点です。逆に言えば、嘘がつけないシビアな世界でもありますけどね。

西口:そうですね。とくにDSP事業においては、エンジニアに求められるレベルも自ずと高くなります。月間数十億件のトラフィック、1秒間に30万リクエストがある世界で、わずかでも遅いプログラムを書いたり、正しく動かない機械学習モデルをつくってしまうと瞬時に、そして如実に売上に影響を与えてしまいますからね。

エンジニアとして事業の成果に向き合い続けるのは、厳しくもあり——でも結局、それこそが最もやりがいを感じられるところでもあるんじゃないかと。どうでしょうか?

佐野:その通りだと思います。機械学習モデルの開発には、「この着想によって劇的に道が開けた!」というような、わかりやすいブレイクスルーの瞬間はありません。少しずつ設定を変えてはその都度精度を計測し、また設定を変えて精度を数%上げる……ひたすらそれを繰り返す、地道な作業の連続です。

細部にこだわりを持ち、粘り強く検証を遂行することが、最終的には品質の改善につながって事業を成功に導く——エンジニアにとっては、その点が何よりのやりがいになっていると思いますね。


— 佐野が入社してから2年後の2017年、機械学習をはじめとする科学技術を応用する専門チーム「Science Division」が立ち上がった。インターネット広告配信システムのパフォーマンス改善を通じて、フリークアウトの売上拡大を担う組織である。ここで佐野は、プレイヤーからマネジメントの立場へと移行していくことになった。

プレイヤーからマネジメントへの舵切り

西口:チームのマネジャーを任せる人間は、フリークアウトの環境で開発や実装をしっかりやって、現場が身にしみてわかっている人でないと、と思っていました。佐野さんは知識や技術面でも第一人者でしたから、このポジションをお願いできるのは佐野さんしかいないな、と。

佐野:私自身も、プレイヤーであり続けたいというこだわりもなかったので、引き受けました。すでに3〜4人のチームを回すという経験もしていましたし、大丈夫かなと。ところが……実際やってみたら、想像を絶する大変さで(笑)。

西口:当初のチームは、半分が新卒のメンバーでしたからね。

佐野:知識や技術の面では非常に優秀なメンバーに入社してもらっているわけですが、初めて企業に入ってきたばかりですから、まず “働き方” がわからないんですよね、新卒社員って。

わからないことを聞いてもらうにも、1人なら1時間で終わりますが、4人、5人といると……単純に、1人ずつ話を聞いていくだけで5時間が費やされてしまう。

西口:そこからいろいろ工夫して、新卒受け入れのメニューやOJTのタスクなどを、少しずつ整備していった。

佐野:そうですね。まずは読んでもらえば基本的な仕事ができるようになる研修メニューをつくりました。そこから少しずつメンバーが増えるにしたがって、僕ではなく先輩社員が後輩に教えることもできるようになっていきましたし、研修メニューも充実してきて、部署でやっている仕事を一通り経験できるようなものができていました。

西口:当時、機械学習の盛り上がりはまだこれからという時期で、中途で採用できるようなレベルの人材はほとんどいませんでした。それなら、大学・大学院でしっかり自分の研究に取り組んできた人に来てもらって、当社で新しい価値をつくり出してもらうほうがいいだろうと判断したんです。

佐野さんは新人のメンバーを大勢抱えて本当に大変だったと思います。でもインターンや新卒社員としてフリークアウトに入ってくれた若手メンバーが、数年たった今、貴重な人材として活躍してくれているのを見ると、その読みに間違いはなかったなと。

佐野:本当にそうですね。機械学習は、研究と応用の間にあるハードルが比較的低い領域だと思います。だから大学・大学院で研究していたことを活かして、ビジネスに応用していくことが十分にできる。

若手人材はまだまだ必要ですので、今後もさまざまな研究領域のバックグラウンドをもった学生に興味を持ってもらいたいですね。


エクストリームな環境に身をおき、常に答えを探していく

西口:最後に、一つ聞かせてください。機械学習全盛ともいえる今、活躍の場はかつてに比べて格段に広がっていると思います。そんな中、佐野さんがフリークアウトに居続ける理由とは何ですか?

佐野:ひとことでいうと、「置かれている環境がエクストリームだから」とでもいうのでしょうか。

ビジネスとして顧客に提供しているサービスで、データの量も種類も多岐にわたり、わずかでも精度が落ちれば事業に影響を及ぼし、売上に直結する。

そんなシビアな環境の中で、ビジネスを理解しつつ自分で数式やロジックを一から組み立て、DSPへの本番実装・運用まで携わり、課題解決への突破口を見つけていけるかが問われる——でもそれこそが、エンジニアとしての自分の腕の見せどころだと思っていて。

西口:シビアだからこそ、力が試される。確かに、エンジニアとして成長できる環境であることは間違いないですね。自社開発のサービスに携わることもあり、コンピュータサイエンスの基礎体力から十分に鍛えられますし。

……ちなみに、研究の世界に戻りたくなることはないんですか?

佐野:ないですね。常に数学を活用する研究領域に触れていたいとは思いますが、僕には、研究結果から導き出された何らかの答えを、現実の世界で確認したいという欲求があるんです。

素粒子物理学でも、数式から導き出した答えを、実験や観測で検証するフェーズはあります。ただそれはもう、ものすごく長いスパンの話になってしまう。膨大な時間と費用がかかるビッグサイエンスの領域ですから、まず、個人が目に見える成果を出すのは難しいんですよね。

でも機械学習の領域なら、目の前にある程度のデータさえあれば、自分たちの手で一つひとつモデルを設計して精度の調査をすることで、設定された課題に対するリアルな答えを導き出すことができる。さらにはモデルをプロダクトに実装して、それが事業の成長にも直結していく。

このスピード感はけっこう衝撃的で、私はいま、その渦中にいられることが楽しくてしかたないんです。だからこれからも研究とビジネスとの接点に立って、常に現実の世界で実装を通じて “答え” を探し求めていきたいですね。

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