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スープストックトーキョーに学ぶ、最先端マーケティング

食べるスープの専門店「スープストックトーキョー」

1999年に創業し、現在は全国60以上の実店舗とオンラインショップを展開しています。化学調味料に頼らない手間ひまかけた調理で、素材の味を楽しめるバラエティ豊かなスープが特長。女性が1人でも入りやすいファストフード店としてヒットし、今では男性のお客さんや家族連れでも賑わう人気店です。

スープストックトーキョーは、昔からブランド力がとても強い印象がありました。スープ専門店といえば間違いなく頭に思い浮かぶブランドだし、ヘルシーなファストフードというポジションも確立しています。なによりも、スープストックトーキョーには何だか良いブランドイメージがずっとあります。

こういうブランドはどのように作られて、どのように続いてきたのか。その秘密を知りたいとお声がけさせていただき、今回のインタビューが実現しました。

株式会社スープストックトーキョーでデザイナーを務める上村貴之さんと広報の蓑毛萌奈美さんのお二人に伺った話をお届けします。

※このインタビューは、2020年3月初旬に実施しました。

あらためて、スープストックトーキョーってどんな会社?

一筆:スープストックトーキョーはブランドの力で成功されているイメージがずっとありました。それ自体がすごいことですし、1999年からスタートして20年以上「らしさ」を維持し続けることも大変だと思うんです。

ビジネスの規模が大きくなり、市場環境も変わっていくなかで、どのようにブランドが成長していき、今後どうなっていくのか、そのあたりを伺えたら嬉しいなと思っています。


上村さん:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

一筆:まず、改めてブランドのコンセプトを教えていただけますか?

上村さん:スープストックトーキョーもそうですし、スマイルズという会社として、「世の中の体温をあげる」という目標を掲げています。(註:株式会社スープストックトーキョーは2016年に株式会社スマイルズから分社化)

「スープを世の中の人にいっぱい届ける」とか、「ナンバー1のスープチェーン店になる」とか、「売上いくらを目指して店舗数をいくつ展開する」といったゴールはないんです。


一筆:そうなんですね。

上村さん:もちろん一つの指針として売上などの数値目標はありますが、世の中の体温をあげるために存在しているブランド、企業だと言えます。

また、「“世の中さん”という人はいないので、目の前にいるお客様1人ひとりの体温を少しでも上げよう」ということを内部でよく話しています。1人のお客様が少し前向きになる、ポジティブになる、暗かった気持ちが明るくなる、午後も仕事がんばろう!と思えるなど、そういうことに少しでも力添えしたいということなんです。

一筆:「世の中の体温をあげる」をクリエイティブの視点で考えると、店内のインテリアや照明設計、パッケージのデザインなど、そういうものにも反映されているのですか?

上村さん:たとえばお店でいうと、チェーン店ですが店舗ごとにデザインを変えています。たまプラーザのお店はお子様連れのお母さんやご家族で来店されるお客様が多いので、その方々に馴染むようなデザインに。オフィス街の店舗ならパッと食べてサッと出られるように導線を工夫し、トーンも少しソリッドにしています。


一筆:来店するお客さんのことを想定して、店舗ごとに内装を変えているのですね。

上村さん:はい。それから、店内で気軽に読んでいただけるリーフレットを定期的に発行しているのですが、当初は食材やスープづくりに対するこだわりや背景にある想いの発信がメインでした。

しかし、ブランドのフェーズが変わり、リーフレットの役割も進化させていく中で、今はお客様の体温が上がる情報をお届けすることを目的にコンテンツを考えています。たとえばお花の話が書いてあって、お客様がそれを読んだきっかけでお花を買って家に飾ったら、少し体温が上がるんじゃないか?ということを考えてみたり。


一筆:そういったツールの1つひとつに、スープストックトーキョーのコンセプトと言いますか、目指すことが徹底して表現されていると。

上村さん:提供する商品が熱々のスープなので、急いで食べるというよりは、ふぅふぅしながら少しずつ食べる。そういう時間が自然に生まれていると思います。なので、お店にいる時間だけはゆっくり過ごしていただきたい。その時にスマホを見るだけでなく、より体温のあがるものを提供したいと思っています


一筆:リーフレットにもお客さんの生活を少し彩ったり、暮らしを少し楽しいものに変えていくという狙いがあるのですね。

上村さん:はい。目標も売上が○%上がったとか、来客数が○%上がったとかではなくて、「100人に1人ぐらい、これを読んだ後に花を買って家に帰ってもらえたらいいよね」と話しています。計れるものではないのですが、そういうシーンが生まれたらいいなと思って制作しています。


スープをツールに広がる共感の輪

一筆:ユニークな企画が多いのも特徴の一つですよね。1日だけカレー専門店に変わる「カレーストックトーキョー」もそうですし、他にも七草粥を提供したりなど、いわゆるスープという枠組みに縛られない企画が生まれています。これもやはり、体温をあげるというコンセプトに基づいているのでしょうか?


蓑毛さん:おっしゃるとおりです。私たちが大事にしていることは一言でいうと、「共感」です。スープを販売しているのですが、スープ屋ではないんです

創業時、社名をスマイルズにしたのも、スープはあくまでも共感を広げるための手段の1つで、今後スープ以外にも手段が生まれる可能性を考えてのことでした。

実際にネクタイブランド「giraffe」や、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」などの事業が生まれています。スープストックトーキョーは4年前に分社化しましたが、分社した今でも私たちはスープ屋さんではないと思っています。


一筆:開業するにあたって「秋野つゆさん」というペルソナを作ったというエピソードが有名ですが、あれも共感がキーワードだったのでしょうか?

蓑毛さん:はい。よくペルソナマーケティングの事例として取り上げていただくのですが、秋野つゆさんはブランドを擬人化したもので、いわゆる顧客ターゲット層とは違うんです。

秋野つゆさんみたいな人に来てほしいというよりは、秋野つゆさんがブランドそのものであると。言い換えれば「スープストックトーキョーさん」なんです

スープストックトーキョーさんは、どんな価値観を大事にしているのか。忙しい毎日の中で、仕事帰りに閉店間際のお花屋さんで一輪だけ買って、カップに挿してフッと一息つくとか。そういった価値観に共感してくださる方とコミュニケーションを取るための手段が熱々のスープであり、お店であり、スタッフであり、リーフレットであると。

上村さん:お正月のコンテンツ「Soup Stock Tokyo 68のご挨拶」もお客様にすごく喜んでいただいている事例の1つです。全国の店舗をカメラマンさんと回って、店長1人ひとりに年始の挨拶を書いてもらうという企画ですが、これも共感を広げる、体温をあげるという目的が出発点となっています。


上村さん:私たちが店舗でお客様と接することができるは、レジカウンターでの1分間程度。

その中で、お客様と店員という関係でしかなかったものを変えられないか? 少しでも自分たちのことを知ってもらうことで、名前のない関係から〇〇さんと〇〇さんという、人と人との関係に近づけたらいいなという思いで始めました。

蓑毛さん:七草粥もそうです。一人暮らしで七草粥をご自宅で作るのは難しいという方が多い中、お店で七草粥を提供すれば、安心感につながるというか、実家のことを少し思い出したり、日本の風習や食文化に触れていただくきっかけになると思って企画しました。


1月7日しか販売していないので、余らせないように、足りなくならないように調整するのが大変ですが、今では毎年楽しみに待ってくださるお客様もいるので、続けてよかったと思いますね。

従業員に「武器」を渡すことで生まれる、お客様とのコミュニケーション

一筆:カレーストックトーキョーもおもしろいですよね。何か黄色いものを持っていれば「少しだけいいことが起きる」と。普通のファストフード形態の店では起こらないコミュニケーションが生まれていると思いました。


上村さん:「サムシングイエロー」という企画ですね。スープ専門店にわざわざカレーを食べに来てくださる方がいるなら、そのお客様に感謝の気持ちを表現したいと考えました。ただ感謝の気持ちを還元するだけでなく、サムシングイエローによって新しいコミュニケーションが生まれる。「何か黄色いもの持っていますか?」というやりとりもあれば、黄色いものを持っていなくても、「その眼鏡も黄色く見えますね」などと言ってサービスを提供する。

分社化してからは人の魅力をもっと高めていくことをテーマの1つにしているので、お客様とのコミュニケーションをかなり大切にしています。

一筆:今はコミュニケーションを取るのが苦手な人も多いと思うんです。それがうまくいくのは、何か秘訣があるのでしょうか?

上村さん:従業員に武器を渡すんです。「サムシングイエローという企画やるので、みなさんお願いします」と。何もないと普通のコミュニケーションで終わってしまう人でも、サムシングイエローという武器があれば、「何か黄色いもの持っていますか?」というコミュニケーションが取れます。七草粥も実は提供するときに、「今年1年、健康にお過ごしください」と必ず一言お声がけするようにしています。

そこからお客様とのコミュニケーションが生まれるので、重要な仕掛けだと思っています。


“表現力採用導入” 個性はかくさず活かして働く!

一筆:今は直営店がほとんどでしょうか?

上村さん:そうですね。

一筆:基本的にフランチャイズはやっていないんですね。

蓑毛さん:やはり、先ほど申し上げたような企画を温度感高く実現させるためには、直営店であることも重要です

たった1日のために店舗装飾をするので、閉店後に夜な夜な準備して翌日オープンし、終わったらすぐに撤収という作業をフランチャイズ店にお願いするのはなかなか難しいところがあります。


一筆:やはり「世の中の体温をあげる」というコアなメッセージをみんなが本気でやるには、そこに本当に共感している社員、パートナー(註:スマイルズではアルバイトをパートナーと呼ぶ)じゃないとやり遂げられないですよね。

そうは言っても、企業のコアなメッセージを社員、パートナー全員に浸透させるのはとても難しいことだと思うんです。そこはやはり、創業者である遠山代表の本気が少しずつ熱を帯びて人に伝わってきたのでしょうか?

上村さん:おそらく、企業理念や大事にしたい価値観に共感した人じゃないと入社しない、もしくは入社しても定着しないのではないでしょうか。

もちろん入社後に「世の中の体温をあげる」をジブンゴト化して、どんどんマインドが成長していく部分はありますが、大前提としてメッセージに共感してジョインするのだと思います


蓑毛さん:あとは近年、「表現力採用」というものをやっています。

一筆:表現力を問う試験ですか?

蓑毛さん:はい。分社する以前はスマイルズで新卒採用を行い、新入社員全員が最初はスープストックトーキョーに配属されていました。近年ではさまざまなブランドを展開していたり、ユニークな新規事業が生まれるスマイルズに興味を持って入社するメンバーもいたため、スープストックトーキョーに配属されて店舗で働く中でミスマッチが起こるケースも実際ありました。

でも、分社化してからはスープストックトーキョーで明確にやりたいことがある人や、接客や飲食業が本当に好きな人、食というフィールドで実現したいことがある人を積極的に採用するようにしています。

その中で、やはり私たちのブランドは従業員一人ひとりが作るものなので、スープストックトーキョーという舞台でスタッフ一人ひとりが何を表現するかでお客様との共感関係も、ブランドイメージも、変わってくると思うんです

そこで、最終面接で自分が得意なことをプレゼンテーションしてもらったり、好きなことを全力で表現してもらったりなど、表現力を問う試験を導入しました。

もともと個性的なスタッフが多い会社でしたが、さらに表現力豊かな社員が増えた印象はあります。


「世の中の体温をあげる」のアウトプットは、店舗ごとに違う

上村さん:それから入社後の施策としては、「スープストックトーキョー グランプリ」という社内イベントをやっています。

いわゆる飲食店でやっているオペレーション力や売上を競う大会ではなくて、「体温をあげる」をどうやって体現しているのかを発表する会を開催しているんです。


一筆:それもまたユニークな取り組みですね! グランプリを決めるのでしょうか?

上村さん:はい。全店舗が応募して、9店舗が本戦進出という形で会場を借りてプレゼンテーションを行います。1位は決めますがそれが目的ではなく、お互いの取り組みを共有して自店にも取り入れることを目的としています。

たとえば、お店の立地によって規模や混み具合、忙しさの質も違うので、その中で、非常に客数が多いお店でもこんな取り組みができるんだ!とか、仲間の体温を上げることが、リファラル採用につながる取り組みなど、自分たちでも真似できそうなことを見つける場になっています。

このイベントを続けていくと、前回参考にしたことが今回はみんなできていたりなど、個々のお店がどんどんレベルアップしていくのがわかります。

またこのイベントは、パートナーと呼んでいるアルバイトさんが主役というのも特徴の一つです。ステージでプレゼンテーションするのは基本的にパートナーです。本戦に出場できなくても、会場に足を運んで、他の店舗のパートナーが堂々とプレゼンテーションしている様子を見てモチベーションが上がり、実際に内部登用試験を受けて社員になったスタッフもいます。


一筆:今、社員は何人ぐらいいらっしゃるんですか。

上村さん:約200名です。

一筆:大半が店舗の従業員でしょうか?

上村さん:7割ぐらいはお店のスタッフですね。

一筆:店舗ごとにオペレーションが違うといいますか、「体温をあげる」ための取り組みが異なるというのは、口で言うのは簡単ですけど、実際にやり続けるのはすごく大変ですよね。

上村さん:もちろんベーシックなルールはありますが、やはりお客様の層や立地が異なるので、やりたいことは変わってきます。

確かに大変なことはありますが、ファストフードの均質化に対するアンチテーゼと言いますか、「ファストフードなのに」という部分を大事にしたいと思っています

これから店舗数が増えたとしても、それぞれのお店の個性、人の個性が輝き、ブランドの魅力につながるような展開をしていきたいと思っています。


一筆:店舗や人が増える中でも、スープストックトーキョーのクオリティをアプトプットし続けられるのがすごいですよね。そこにはどんな秘訣があるのでしょうか?

上村さん:人数が増えてもクオリティは見えると思いますし、仮に僕が見えていなかったとしても、僕じゃない誰かが見ていたりするんですよ。

ほとんどのスタッフが、スープストックらしさとは何かをわかっていると思います。

スープストックトーキョーというブランドに対する共通認識が根付いているのは、やはり最初の採用の段階でブランドの価値観に共感して入ってくるということが大きいと私は思いますね

一筆:離職率も低いとお聞きしました。そこにも何か施策があるのでしょうか?

上村さん:はい、飲食業の中ではかなり低いほうだと思います。取り組みとしては、SNS機能をもったウェブ社内報「Smash」でパートナー(アルバイト)も含めて、従業員が発言できる場を設けています。


お店で起きたできごとや意見、アイデアなどをそこで共有してもらえれば、社長や営業部長が直接そこに返信したり、かなり高頻度でリアクションをします

このように、「ちゃんと見てくれているんだ」という意識は社員にもパートナーにもあるのではないかと思います。


20年経っても、ブランドの濃さを失わないスープストックトーキョーの凄さ

一筆:20年以上、どんどん事業規模を拡大していきながら、ブランドの濃さも失わずにいられるというのが、けっこう奇跡的なことのような気がするんです。

上村さん:ありがとうございます。ただ、その広がり方がせいぜい70店舗。遠山が最初に書いた企画書では50店舗が目標でした。

それはつまり、「目の届く範囲で広げていく」ということだと思うんですよね。

今でもただ単に店舗数を増やすことはしません。もちろんファストフードという業態の中では割と高価な価格設定なので、どこでも売れるわけではないということもありますが、それよりも納得できる場所や、意義のある場所にだけ出店していくことを大事にしています

一筆:ファストフードというカテゴリの中でも異質ですよね。普通、ファストフードというとサッと食べられるし美味しいけれど、ちょっと罪悪感があるじゃないですか。

でも、スープストックトーキョーだと野菜がたくさん入っていて、栄養バランスも良くて、ちゃんと身体に良いものを摂れたという気持ちになれる


上村さん:商品設計で言うと、とにかく健康的なものを作ろうという発想ではないんです。

今おっしゃっていただいた身体に良いものを摂れたという感想も含めて、「美味しい」ということを大切にしています

なので、けっこうお肉が入っているものもありますし、必ず○kcal以下にするというやり方はしていません。


一筆:そうだったんですね。消費者からすると、ずっと良いイメージがあるブランドだと思うんです。もはやスープストックが頭の中に1つのジャンルとして定着していますよね。

それが「体温をあげる」というコンセプトにも通じるものだと思うのですが、本当に暖かい、優しい感じがあって、そこに人が吸い寄せられるのではないかと。

グラフィックやお店の内装からも暖かくて優しい感じが伝わりますよね。


上村さん:基本的なルールとして、余計な色を使わないようにしています。なぜなら、スープに彩りがあるからです。

ロゴが黒いのも、20年前の飲食店やファストフードではあり得なかったのですが、それもスープが彩るから余計な色を使わないという考えから生まれたものでした。

お店に使う素材も木やガラス、ステンレスなど、白黒の要素を意識しています。コンクリートのむき出しも含めて、色は使わないという考えです。人によっては無機質に思われるかもしれないのですが、でも優しいというふうに捉えてくださればうれしいです。

一筆:あくまでも、主役はスープであると。

上村さん:そうです、スープを引き立てるためのデザインです。

一筆:20年経つと時代も変わるし、今の20代前半の人たちの感覚もだいぶ変わってきているじゃないですか。そういう人たちとブランドを作っていくとき、「共感」という言葉の意味や捉え方も変わっていくと思うのですが、そこを擦り合わせる仕組みはあるのでしょうか?

上村さん:「共感」という部分で言うと、クリエイティブ本部長の野崎が自著『自分が欲しいものだけ創る』でも書いていますが、結局「世の中さん」は回り回って自分自身じゃないかと思うんです

たとえば、自分だったらグイグイおすすめされて買うかな?とか、ちょっと暑苦しいのは嫌だな、とか。笑顔がわざとらしいなとか、敏感に感じるじゃないですか。

会社として、ブランドとしてというより私自身の話ですが、社内の人には「自分だったらどう感じるかな?」ということを話すようにしています。

一筆:以前、よなよなエールを製造しているヤッホーブルーイングの方にインタビューした時にも感じたのですが、良いブランドは単純に社員同士のコミュニケーションの量が多いと思うんです。ブランドをもっと良くするためのコミュニケーションが頻繁に飛び交う状況が作られている。

先ほどの社内報の掲示板コーナーの話もそうですし、今の上村さんのお話も伺って、スープストックトーキョーも社員同士の活発なコミュニケーションが生まれていることが、20年以上スープストックらしさを持ち続けられる理由なのかなと思いました。


スープを通じて「食のダイバーシティへの対応」を目指す

一筆:今後のブランドの展望を教えていただけますか?

上村さん:1つはお店ごと、個人ごとにもっと色を出していきたいと思っています。売上的には難しいかもしれないけれど、「この人に食べさせたいから」という理由での出店やメニューがあっても良いと思うんです。

一筆:具体的にはどのようなお店やメニューを想定しているのでしょうか?

上村さん:たとえば、当社では「Soup for all!」というプロジェクトを立ち上げています。これは「食のダイバーシティへの対応」を推進する活動で、0歳から100歳まで、健康上の制約や宗教上の制約、場所の制約などを超えて、それぞれ誰もがおいしく召し上がっていただけるスープを届けることを目指しています

すでにベジタリアンメニューやハラール対応商品などを展開していますが、今後、嚥下食、病院食、離乳食なども含めて、お客様の選択肢を増やせるような商品開発に取り組んでいきたいと思います。


一筆:今の話をお聞きして改めて思ったのですが、お客様に対しても社員に対しても、1人をとても大切にされているブランドですよね。個人の意見や考えをすごく尊重されているのが伝わります。

上村さん:ありがとうございます。当社ではCYO(チーフ・やりたいこと・オフィサー)という役職を設けているんです。

一筆:チーフ・やりたいこと・オフィサー?

上村さん:はい。スープストックトーキョーで実現したいことを従業員から募り、みんなで1位を選んでその人に時間と役職を与えるという制度です。スープストックトーキョーを通してやりたいことがそれぞれあると思うので、それをなるべく会社として実現したいという思いで生まれました。


1人が大切だから、働き方も開拓する

一筆:やっぱり1つひとつの取り組みがユニークで、ただの飲食業ではないですよね。そういう意味では働き方についても、休みがなくて重労働で、残業が多いという飲食業界にありがちなイメージとも違う気がします。

蓑毛さん:まだまだ外食産業で働くことに対するネガティブなイメージもある中、労働環境の改革も積極的に行っています。

一人ひとりが「自分はどう働きたいか、どう生きていきたいか」を考え、自ら開拓していくという価値観のもと、「働き方開拓」と呼び、制度設計などを行っています。

単純に休みを増やし、残業を減らすだけでなく、従業員が心身ともにしっかりと休めるように全国各地にヘルプに行ったり、店長の長期休暇中に代役ができるような特殊部隊、私たちは「生活価値拡充隊」と呼んでいるのですが、そういうチームを組織しています

一筆:社員に安心して休んでもらうための専門チームがあるんですね!

蓑毛さん:はい。それから、ピボットワーク制度を導入し、スマイルズグループ内での複業および社外複業を解禁しています。

上村さん:現状、複業している人が多いわけではないですが、そういう経験が人の価値や魅力を高め、ブランドの魅力につながっていくと思うので、これからも率先してやっていきたいですね。


一筆:本当に1人を大切にする会社ですよね。

蓑毛さん:そうですね。働き方開拓も、もともとは制度がないところから1人ひとりの働き方に合わせて対応をしてきた結果がそうなっているだけで。

時短勤務制度も最初はママとパパのために導入しましたが、今では子育て以外にも自己研鑽のために学校に通ったり、介護をしたり、自分で事業を立ち上げる準備をしたり、各々が自ら考えて活用しています。


「体温をあげる」をジブンゴト化する。それがブランドを育てる

一筆:1人が尊重されるぶん、自主性も求められるのですね?

蓑毛さん:おっしゃるとおりです。遠山がよく言っているのは、「新規事業準備室とかイノベーション推進室といった箱を作らなくても、やりたい人は勝手にやり始める」と。1人ひとりが自分のことをちゃんと考えて、働き方や生き方を開拓していく。それに対して会社がサポートできることは全力でやりますというスタンスです。

一筆:そこには、ジブンゴト化してほしいという思いがあるのでしょうか?

蓑毛さん:そうですね、私たちもジブンゴトという言葉をよく使います。

もともと遠山が作った企画書からスープストックトーキョーは生まれましたが、2005年に描いた10年分の事業計画書(2015年まで)以降、遠山は事業計画書を描いていないんです

そこには、「この先のことは、あなた自身に描いてほしい」というスタッフへのメッセージも込められています。


Soup for all!という言葉も、実は遠山の最初の企画書に載っている言葉でした。

それが遠山の場合はアレルギー体質の家族に対する思いから生まれた。ある人にとっては生まれてくる赤ちゃんのために離乳食をスープストックトーキョーでやりたいと思うかもしれないし、病気になって減塩スープの大切さに気づいた人もいるかもしれない。

あなただったら誰に何を届けたい?という問いに対する、1人の思いから生まれるシーンを実現し続ける。それ自体がスープストックトーキョーというブランドだと思うんです。なので、場合によっては店舗じゃないビジネスの形になっている可能性もありますよね。

上村さん:半分冗談のような半分本気のようなことを言うと、10年後に「スープストックトーキョーって、昔はスープ売っていたんだ」みたいなことがあるかもしれない

スープがなくても「世の中の体温をあげる」が成立するようになりたいという気持ちも込めて、そんなことを話しているんです。

一筆:強いビジョンが明確にあるので、本当にあり得るかもしれないですよね。その時に、それこそ社員全員が個人事業主のように主体性を持って行動できることがブランドの資産になる気がします。

蓑毛さん:はい。遠山は「サラリーマンというビジネスモデルは素晴らしい」と言っていました。つまり、入社した初月から給料という売上が確実に入るのはすごい仕組みだと。しかも、使えるリソースがたくさんあって、スープストックトーキョーというブランド力も活用できる。

なので、個人のやりたいことと、企業だからできること、チームだからできることをバランスよく組み合わせると、思いっきりジャンプができる可能性もあると、よく話しています。

これから先、私たちがもっと主体的にチャレンジしていくこと、それをお互いに促すようなことをやっていけたらいいなと思っています

一筆:ありがとうございます。スープストックトーキョーというブランドがなぜ強いのか、その理由がよくわかりました。これは他のブランドでは真似できないですよね。とても勉強になりました、本日はありがとうございました!

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一筆後記

スープストックトーキョーは、遠山正道さんという1人のカリスマが生み出したブランドです。

ファストフード店に抱いていた様々な疑問や、アレルギー体質のご家族が安心して食べられるものを作りたいという遠山さんの至極個人的な思いからスタートしました。日本にはあまりないタイプのブランドであり、ファストフードでありながらクリエイティブに対する感度が高いのも特徴です

そんな尖ったブランドが20年以上も続いているということが、僕には奇蹟に思えてなりませんでした

広報の蓑毛さんがお話しされていたように、遠山さんが描いた事業計画は2015年以降、更新されていません。それでもスープストックトーキョーというブランドはなくなるどころか成長し続けているのです。

その先のストーリーは遠山さんの頭の中にあるのではなく、「世の中の体温をあげる」というコンセプトに惹きつけられて集まった人たちが、自分たちの表現によってスープストックトーキョーというブランドをアップデートし続けている。それがまた、さらなる奇蹟だと思うんです。

どうしてそんなことができるのだろうか? それを探ろうとしたのが今回のインタビューでした。

実際に話を伺ってわかったことは、「1人を大事にしている」ということ

彼らは1人の社員がどうしたらもっと良くなるのかを本気で考える。そもそもスープストックトーキョーというブランド自体が「秋野つゆ」という1人であり、この人をもっと良くすることをみんなが本気で考えています。

みんなが、1人を幸せにすることを本当に突き詰めているのです

それについては、クリエイティブ本部長の野崎亙さんによる書籍『自分が欲しいものだけ創る!』に詳しいです。同社はまさに自分が欲しいものだけ創るを実践して、企業として成長してきました。ただし、ここで重要なのはマーケティングを否定しているわけではないということ。

市場調査や顧客インサイトなどのマーケティング手法は、魅力的な商品やサービスを生み出すためのツールではなく、モノサシのような使い方をすることで、自分が欲しいものの価値を高めることに役立てているのです。それが成功したポイントの一つであり、それ自体が新しいマーケティング手法ではないでしょうか。

スープストックトーキョーの進化が止まらない理由を、今回のインタビューによって垣間見れたのではないかと思います。

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